衛星解析ツール「Ridge SAT Image Analyzer」の技術スタックについて

はじめに

こんにちは!Ridge-iの AI エンジニアのwhataです。 今回は、私たちが開発し、改良を重ねている衛星解析ツール、Ridge SAT Image Analyzer(RSIA)についてご紹介します。 衛星解析やその他AIに興味がある方、下記のリンクからエントリーが可能です。

www.wantedly.com

衛星画像解析の課題

衛星画像の解析は、都市計画、農業、環境モニタリングなど、多くの分野で革新的な可能性を秘めています。 しかし、その解析には多くの課題があり、これらが衛星画像の幅広い活用を妨げていました。 私たちRidge-iは、これらの課題に真正面から取り組み、解決策を模索しています。

技術的な課題

専門知識の必要性

衛星画像には位置情報が含まれているため、単なる画像処理だけではなく、GIS処理(下記に参照記事)、次に撮影するタイミングの計算のための軌道情報などの複合的な専門知識が必要です。 例えば、ある建物を定期的に検出する場合、その建物の画像上の位置だけでなく、実際の地理座標を含めた解析、撮像する衛星のセンサ情報(分解能など)や観測頻度まで加味して使用する衛星データを選定することが求められます。

参考記事:

sorabatake.jp

大容量データの処理

衛星データは一枚の撮像範囲が大きいこと、一般的な8bitではなく高精度で情報量の多い16bitで表現されるものがあること、バンド数もRGB以外の多くのバンドを有することを特徴としており、衛星画像1枚のデータサイズが1GBもあるケースがほとんどです。 これは一般的な画像の数百倍以上のサイズです。 そのため、通常のデスクトップコンピュータやクラウド上の標準インスタンスで従来のディープラーニング技術などを利用する場合には画像を分割して処理し、その結果を統合する等の工夫が必要になります。

画像間でのバラエティの大きさ

同じ場所を撮影した衛星画像でも、撮影時期や時間、撮影対象国によって見え方が大きく異なります。 例えば、季節による植生の変化や、時間帯による影の変化などがあります。そのため、一貫した解析結果を得るためには、これらの変動を考慮した前処理やドメインの合わせこみが必要不可欠です。

例:

衛星データで撮影したレバノンの首都ベイルートの画像の比較。太陽高度などにより海面や港湾部の色の見え方が異なる。(JSI社HPより)
参考:https://www.jsicorp.jp/gallery/gallery_202010.html

画像の複雑さ

衛星画像は、一般的なRGB(赤・緑・青)画像以外にも、近赤外線など特殊な情報を含む多様な種類があります。例えば、近赤外線は植生の健康状態を判断するのに非常に有効です。一方で、多バンドの画像解析には下記のような課題が存在します。

  1. 可視光以外のバンドに対する専門知識(どのバンドがどのような種類の対象に反応しやすいか)
  2. 世の中に公開されているモデルはRGBに特化されており、転移学習の元となる重みデータもRGBに特化しており、そのまま使おうとするとRGB3バンド以外の部分は捨てないといけないことが多い

そのため、多バンド解析のためには専用のモデル構築が必要になります。

参考記事:

sorabatake.jp

運用上の課題

衛星画像のライセンス

多くの場合、購入した衛星画像の所有権は衛星画像プロバイダに留保されており、外部の解析者に解析を依頼する際にも様々な制約があります。 これは、迅速な解析や柔軟なデータ活用を難しくする要因の一つとなっています。

Ridge-iが開発した衛星AIソリューション:RSIA

これらの課題を解決するために、私たちRidge-iが開発したのが、Ridge SAT Image Analyzer(RSIA)です。 RSIAは、衛星画像解析の専門家でなくても、高度な解析を可能にするために以下のような特徴を持ちます。

1. AI、衛星に関する知識が無くても最先端モデルを使いこなせるようなインターフェース

複雑な設定や専門知識がなくても、最新の解析モデルを作成できます。 ユーザーは、解析したい衛星画像を特定の場所に保管し、ワンコマンド入力するだけで解析を行うことができます。 具体的には、ユーザーの入力に応じて、RSIA内で最適な画像分割、衛星画像の前処理や後処理を選択し自動実行してくれます。

自前でオリジナルモデルを作成したい場合にも、衛星画像とアノテーションを特定の場所に保管して、ワンコマンド入力するだけで作成できます。

2. 柔軟な業務への導入

RSIAはコンテナ技術を用いて構築されているため、完全なオフライン環境でも、クラウド上でも、どちらでも簡単に導入できます。 これにより、セキュリティの厳しい環境下やライセンスの制約下、さらにスケーラビリティが求められる環境下でも、柔軟に対応することが可能です。

RSIAの活用例

RSIAは、すでに多くの分野で活用されています。 以下にいくつかの具体例を挙げます。

物体検出

土地の分類(セグメンテーション)

  • 土地利用の分類:都市部、農地、森林などの土地利用状況を自動的に分類します。都市計画や農業政策へと利用されています。

変化検出

  • 森林伐採の監視:衛星画像を比較し、森林面積の変化を自動的に検出します。これにより、違法伐採の早期発見や、環境保護活動の効果測定へと応用されています。
  • 地図更新への応用:国土地理院様で応用されている例で、電子基本図の更新業務のために応用されています。
  • 農地の異常検知:土地分類で検出した農地それぞれに対して時系列でモニタリングするプラグインをカスタムし、従来のトレンドと異なるケースが無いかを確認するために応用されています(現在開発中)。

現在も、RSIAは複数の官公庁案件と民間案件で利用されています。

光学画像に対して船検出を実施した結果 (Contains modified Copernicus Sentinel data [2024])

SAR画像に対して物体検出を実施した結果(Contains modified Copernicus Sentinel data [2024])

RSIAの技術的特徴

RSIAは、技術的には下記のような特徴を有しています。

多様なモデルを選択可能

従来型のCNN(Convolutional Neural Network)から、最新のTransformerベースのモデル(例:DINO)まで、複数の深層学習モデルを搭載しています。 ユーザーのニーズや解析対象に応じて、最適なモデルを柔軟に選択可能です。

柔軟な入力・出力データ形式

地理情報システム(GIS)で一般的に使用されるshp/geojson形式や、衛星画像の標準フォーマットであるGeoTIFF形式など、多様なデータ形式に対応しています。 これにより、既存の業務で使えるGISデータや衛星画像データをそのまま利用することができ、データ準備の手間を大幅に削減できます。

幅広い画像の種類に対応

可視光線を捉える通常の光学衛星画像だけでなく、近赤外線やマイクロ波を利用するSAR(Synthetic Aperture Radar)衛星画像など、さまざまな種類の衛星画像に対応可能です。 技術的には、画像インプットレイヤーと前処理部分で特有のプラグインを有しています。 これにより、天候や時間帯、新たに打ち上げられた衛星のセンサーに左右されない安定した解析が可能になります。

自動前処理

衛星画像特有の撮影条件による変動を自動的に補正する機能を搭載しています。 これにより、異なる時期や異なる衛星で撮影された画像でも、一貫性のある解析結果を得ることができます。

スケーラビリティ

Dockerコンテナ技術を用いて構築されているため、小規模な解析から大規模な並列処理まで、柔軟にスケールアップすることが可能です。 これにより、ユーザーのニーズの変化や、解析対象の拡大にも迅速に対応可能であり、システムへの連結も容易です。

今後の展望

現状では、まだまだ顧客の要望に対して最低限の機能を有しているだけで、さらなる発展が必要です。 複数例を示します。

非画像データとの融合プラグインの増加

衛星画像以外のデータ、例えば地上センサーの情報や統計データなどと組み合わせた高度な分析機能の開発を進めています。 これにより、より精度の高い予測や、顧客それぞれの業務に深く入り込んだモデルを即座に開発できるようにしたいと考えています。 具体例として、「ソーラーパネルの設置可能性が高い家屋のリスト作成」があります。 RSIAで衛星画像から家屋とソーラーパネルを検出し、そのデータと地域の日照量データ、家屋の築年数データ、世帯収入データなどを組み合わせることで、ソーラーパネル設置の営業活動を効率化できる可能性があります。

AI言語モデル(LLM)との統合

すでに、JAXAと協力しChatGPTのような言語モデルとRSIAを統合し、LLMインターフェースにより、データ取得から物体検出モデルを呼び出すことに成功しています。 将来的には、さらに進化させて自然言語での対話を通じて衛星画像解析を幅広く行えるようなシステムの開発を目指しています。 例えば、「東京都内の緑地面積の変化を過去5年分析して」といった指示を与えるだけで、RSIAが自動的に必要な衛星画像を選択し、解析を行い、結果をレポートとして出力するようなシステムです。

リアルタイム解析

衛星データプロバイダと協力し、衛星からのデータ受信後、即座に解析を行い、結果を提供するリアルタイム解析システムの開発を計画しています。 これにより、災害監視や急激な環境変化の検出など、即時性が求められる分野での活用が期待できます。

最後に

今後、このブログの中で、詳細な技術や具体的なユースケースについて発信していきたいと考えています! ここ数年でRidge-iの衛星関係の事業も大きく拡大しており、ともに協力してくださる仲間も募集しています。 カジュアル面談から可能なので、ぜひお気軽にご連絡ください!

www.wantedly.com

過去の参考記事

iblog.ridge-i.com

iblog.ridge-i.com